codomo | codomo - Part 10

Butterfly in the Stomach

昔、九州の炭鉱が盛んだった頃に”スカブラ”という職業があったそうです。炭坑夫は、泥と汗にまみれながら石炭を掘っていました。勤務が終わって炭鉱から出てくると、その中に1人だけ汗もかかず服も汚れず、ニコニコと笑っている男がいたそうです。この男が”スカブラ”です。スカブラは、他の炭坑夫のように石炭を掘りません。炭鉱の中で、面白い話やHな話をしたり、みんなにお茶を出したりします。

時代が変わり石炭をエネルギーとして利用しなくなると、炭鉱経営も傾いていきました。するとリストラの話になり、何も生産的な仕事をしていないスカブラは真っ先にいらないのではないかという結論になりました。そして、スカブラのいない炭坑夫たちの作業効率は、結果大きく下がっていきました。人間関係もギスギスしていったそうです。

仕事には失敗して良いことはなく緊張は必ず伴うものです。しかし、スカブラ的な行為はいつだって必要です。誰かが冗談を言ったりドジな振りをしたり、ユーモアで緩和させることがなければ、一つの失敗だけが際立ち、責め合う関係性も生まれます。スカブラが存在できない仕事や社会というのは危険です。バイクのブレーキだって事故を避けるために”遊び”と呼ばれる間を設けています。間がない緊張は良くないのです。僕がおっきな会社の社長さんだったらぜひスカブラ職を復活させたいです。昔、ブックデザイナーの祖父江慎さんに取材した時にデザインのコツを訊いたら、うっとりしながらすることが大事とおっしゃっていました。対象に惚れ込んで仕事ができ、横にスカブラが居てくれたらもう最高です。 2012/07/14

35mm Film Camera

気軽に撮れる35mmフィルムカメラが欲しくて探していたところ、京セラTプルーフというカメラに出会う。1995年発売当時さほど人気が出なかったようだが、海外ではYashica T4として高い評価を得ており、日本よりも人気があるようだ。レンズには、カールツァイスのテッサーT* 35mm/F3.5を搭載している。Yashicaはフォトグラファーのテリー・リチャードソンの愛用カメラとしても有名である。

さっそくオークションにて探してみるが、なかなか数も少なく、競ると3万円台になる。他にないかとさらに探したところ、荒木経惟やHIROMIXが愛用していたKonica Big Miniシリーズに行き当たる。これは平均で1万円ぐらい。カメラじゃない、何を撮るかなのだと当初の目的から変更し、Konica Big Mini初代の後継機BM-201を競り落とした。BM-201のレンズも抜けが良く鮮明な35mm/F3.5がついているそうだ。

昨年からデジタル一眼をよく使用していたがカメラが大きいので、あ!と思った瞬間にパッと撮るにはなかなか難しく感じていた。マグナムのドキュメンタリー映画を観て35mmを見直した経緯もある。iPhoneで撮っていても感じるが、大きさによって撮れるものは異なる。Big Miniの大きさで何が撮れるのか何が撮れないのか楽しみだ。 2012/06/28

Reason for Being

人間の最大の発明は文字だ、と僕は思う。文字を使ったコミュニケーションこそ我々人間の快楽だ。文字は情報を持っている。美しさも兼ね備えている。つまり、かなり才色兼備なやつなのだ。新聞社にいた頃、新聞明朝を制作しているフォントデザイナーの方に話を伺ったことがある。いまだにと言うと失礼だが、紙をカッターで切って書体を制作していた。時代に合わせて、書体を少しだけスリムにしたり整えたりしている。その作業はほんとうに微細で読者は誰も気づかない。故スティーブ・ジョブズは大学でタイポグラフィの講義を受け、文字デザインの整然とした思想をパソコンのエンジニアリングに取り入れようと思ったそうだ。だからMacのデザインは整然としている。僕のwebのtop画像にあるMacは段ボールで実際作ったのだが、寸法を測ってみて驚いた。5や0mmと区切りの良い数字で設計されていた。書体が面白いのは、可読性は当然必要とされるが、存在理由に美しさも必要とされることだ。そして生きた時代を感じさせることも。 2012/06/21

Open sourcs

デザインはどうしたらもっと上手くなるのだろうか?「Number」というスポーツ雑誌が好きなのですが、スポーツ選手の考え方を見本にすると、デザインも上手くなる気がします。一流選手は練習法がとても合理的です。足らない所は何か、自分より上手い人から取り入れる観察力や柔軟な思考を常に持っています。理想像を具体的にイメージして日々積み重ねるのです。伝説の忍者・猿飛佐助のことを書いた本を昔読みました。それによると猿飛佐助というのはひとりの人物ではなく、集団の呼称だったそうです。猿飛佐助というのは“型”に過ぎず、卓越した技術それ自体を猿飛佐助と呼んだのです。集団はその“型”を共有することで誰もが卓越した技術を持った忍者になれたのです。今で言うオープンソースみたいなものです。Graphic designにも文字組やレイアウトの基礎的な”型”はあります。基礎を飛び越えてこそ、猿飛佐助のような卓越した”型”が生まれるのだと思います。主題が脱線しましたが僕もまだ答えに辿り着けずでして…おそまつでした。 2012/05/29

Organaize City

NYに初めて一人旅行した時、右も左も分からず迷うだろうと思っていた。地図を見ると、街の構造が分かりやすいことに気づいた。すべての通りの名称が2th Avenueとか5th Streetのように数字で構成されている。2thから3th Aveに行きたければ隣の道を目指せば良い。交差点に標識もあるので今自分がどこにいるか直ぐ分る。言語が違えど数字は世界共通のグラフィックなわけで、これは移民の多い都市の知恵なのだろうか。日本と違うなぁと思ったのは電車内の広告だ。ひとつの広告に対して文字量が少ない。写真と文字の関係がとてもシンプルだなと思う。多くの情報を掲載するよりも速度の早いコミュニケーションが求められた結果だ。NYは古い建築と新しい文化が共存した街だが、サインも含めてコンセプトがとてもシンプルだ。東京も速度の早い街だが比べると少し余分な情報量に埋もれている。グラフィックデザインも都市計画の一部だと思った。 2012/05/26

A spicy play

古今亭菊之丞という落語家がいる。高座は古典が多いようだが、どこかモダンな雰囲気がある。友人に誘われて行ったきり注目している。彼の高座は「寝床」「幇間腹」「子別れ」の3つを観たことがある。旦那芸にとても色気がある。そういうのをこの業界では“様子がいい”と言うらしい。

落語は演じる人によって、同じ話でも雰囲気がまるで違うから面白い。若手には時折、緊張が垣間見える。演じ手が緊張しているピリっとしたムードは、こちらにも伝わって来る。そうなると笑える話も笑いにくくなる。おそらく“様子がいい”人が演じる旦那だから色気があるし、余計に滑稽さも感じるのかも知れない。

滑稽さを笑えるということは、うまくいかないことを許せるということでもある。うまくばっかりいく人なんていない。失敗をどう展開すればユニークになるのか、あるいは良い方向に転がせるのか。みんなが緊張した中でユーモアをつくれる人を僕は尊敬する。来世は落語家になりたい。 2012/04/30

Lies and Logical

「鼻行類」という本がある。鼻で歩く奇妙な生物を記述した本だ。その生物の性質、生き方や解剖図まで事細かに書いてある。ところが、この生物は実在していない。実在しない動物をあたかもいるように考え示した本。ハラルト・シュテュンプケというドイツ人が書いた、いわば理論生物学といえる本である。動物行動学者の日高敏高さんはこの本を日本語訳した。真に受けた学生や大学教授もずいぶんいた。そういう結果になることを分かっていて、なぜあなたは研究者としてしたのか。はじめから嘘だと分かっているものを発表するのは良くない、と日高さんは怒られた。それに対して日高さんはこう答えた。人間どんな意味であれ、きちんとした筋道がつくとそれを信じ込んでしまうということが面白かったので、そのことを笑ってやりたいと思って出したのです。私たちは滑稽な動物だと示したかったのです、と。人間は理屈が通ると実証されなくとも信じる性質がある。だから弁護士が有罪を無罪にすることもある。とてもユーモアのある話だと思った。 2012/04/28

Drawing of Fractal

ドローイングに惹かれる。それも荒削りであればあるほど良いと思う。人の手で作り出したものには「揺らぎ」がある。決められたグリッドには収まらない線に、人の脆さや儚さを感じる。

NYに行ったとき、Printed Matterという本屋で、面白いドローイングをいくつか見た。どれも下手な絵ばかりだった。真っ裸で服なんて着てないけど、堂々と原始人が立っているような絵が多かった。子どもが描いているのかと思う絵。そういう絵の方が「揺らぎ」が見れて楽しい。揺れているからこちらの感情も揺さぶるのか…分からない。未完成なものには想像の余白があるからかも知れない。 2012/04/13

A +B = ?

映画「はじまりの記憶  杉本博司」を観てきた。杉本さんはNYの写真スタジオで働いていた頃、アメリカ自然史博物館でふとジオラマを撮影した。その写真をMOMAに持ち込み、フリーのカメラマンとして最初の評価を得た。普通は、下から地道に行くところをトップダウンで持ち込みをしたと言っていた。なかなか度胸もいることだと思う。
今年の二月に僕もNYに行ってきた。アメリカ自然史博物館のジオラマを観て思った。杉本さんの作品を既に見ていたので、これをどのように撮れば面白くみえるか、その演出はよく理解できた。アイデアは最初に思いつき、尚かつ実行した人こそが開拓者である。
アイデアのエレメントは主に、AとBの組み合わせで構成されることが多い。この写真は、たんぽぽをガラスで封じ込めたもの。本来たんぽぽの種は風が吹けば飛んでいってしまうものだが、紙を飛ばさないための重しになっている。ペーパーウェイトである。これもAとBの組み合わせである。
昔、テレビで所ジョージさんが「沖縄の基地」とかけまして「おみくじ」と解く、その心は「キチが良いのか悪いのか」と言っていた。アイデアは常に要素と要素の出会いなのだ。一期一会の:) 2012/04/10

< 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10