「鼻行類」という本がある。鼻で歩く奇妙な生物を記述した本だ。その生物の性質、生き方や解剖図まで事細かに書いてある。ところが、この生物は実在していない。実在しない動物をあたかもいるように考え示した本。ハラルト・シュテュンプケというドイツ人が書いた、いわば理論生物学といえる本である。動物行動学者の日高敏高さんはこの本を日本語訳した。真に受けた学生や大学教授もずいぶんいた。そういう結果になることを分かっていて、なぜあなたは研究者としてしたのか。はじめから嘘だと分かっているものを発表するのは良くない、と日高さんは怒られた。それに対して日高さんはこう答えた。人間どんな意味であれ、きちんとした筋道がつくとそれを信じ込んでしまうということが面白かったので、そのことを笑ってやりたいと思って出したのです。私たちは滑稽な動物だと示したかったのです、と。人間は理屈が通ると実証されなくとも信じる性質がある。だから弁護士が有罪を無罪にすることもある。とてもユーモアのある話だと思った。 2012/04/28
ドローイングに惹かれる。それも荒削りであればあるほど良いと思う。人の手で作り出したものには「揺らぎ」がある。決められたグリッドには収まらない線に、人の脆さや儚さを感じる。
NYに行ったとき、Printed Matterという本屋で、面白いドローイングをいくつか見た。どれも下手な絵ばかりだった。真っ裸で服なんて着てないけど、堂々と原始人が立っているような絵が多かった。子どもが描いているのかと思う絵。そういう絵の方が「揺らぎ」が見れて楽しい。揺れているからこちらの感情も揺さぶるのか…分からない。未完成なものには想像の余白があるからかも知れない。 2012/04/13
映画「はじまりの記憶 杉本博司」を観てきた。杉本さんはNYの写真スタジオで働いていた頃、アメリカ自然史博物館でふとジオラマを撮影した。その写真をMOMAに持ち込み、フリーのカメラマンとして最初の評価を得た。普通は、下から地道に行くところをトップダウンで持ち込みをしたと言っていた。なかなか度胸もいることだと思う。
今年の二月に僕もNYに行ってきた。アメリカ自然史博物館のジオラマを観て思った。杉本さんの作品を既に見ていたので、これをどのように撮れば面白くみえるか、その演出はよく理解できた。アイデアは最初に思いつき、尚かつ実行した人こそが開拓者である。
アイデアのエレメントは主に、AとBの組み合わせで構成されることが多い。この写真は、たんぽぽをガラスで封じ込めたもの。本来たんぽぽの種は風が吹けば飛んでいってしまうものだが、紙を飛ばさないための重しになっている。ペーパーウェイトである。これもAとBの組み合わせである。
昔、テレビで所ジョージさんが「沖縄の基地」とかけまして「おみくじ」と解く、その心は「キチが良いのか悪いのか」と言っていた。アイデアは常に要素と要素の出会いなのだ。一期一会の:) 2012/04/10
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