Butterfly in the Stomach
昔、九州の炭鉱が盛んだった頃に”スカブラ”という職業があったそうです。炭坑夫は、泥と汗にまみれながら石炭を掘っていました。勤務が終わって炭鉱から出てくると、その中に1人だけ汗もかかず服も汚れず、ニコニコと笑っている男がいたそうです。この男が”スカブラ”です。スカブラは、他の炭坑夫のように石炭を掘りません。炭鉱の中で、面白い話やHな話をしたり、みんなにお茶を出したりします。
時代が変わり石炭をエネルギーとして利用しなくなると、炭鉱経営も傾いていきました。するとリストラの話になり、何も生産的な仕事をしていないスカブラは真っ先にいらないのではないかという結論になりました。そして、スカブラのいない炭坑夫たちの作業効率は、結果大きく下がっていきました。人間関係もギスギスしていったそうです。
仕事には失敗して良いことはなく緊張は必ず伴うものです。しかし、スカブラ的な行為はいつだって必要です。誰かが冗談を言ったりドジな振りをしたり、ユーモアで緩和させることがなければ、一つの失敗だけが際立ち、責め合う関係性も生まれます。スカブラが存在できない仕事や社会というのは危険です。バイクのブレーキだって事故を避けるために”遊び”と呼ばれる間を設けています。間がない緊張は良くないのです。僕がおっきな会社の社長さんだったらぜひスカブラ職を復活させたいです。昔、ブックデザイナーの祖父江慎さんに取材した時にデザインのコツを訊いたら、うっとりしながらすることが大事とおっしゃっていました。対象に惚れ込んで仕事ができ、横にスカブラが居てくれたらもう最高です。 2012/07/14