Because it's there | codomo

Because it’s there

クライマーの本をいくつか読んだ。僕のお勧めは「孤高の人」「垂直の記憶」「クライミング・フリー」である。
「孤高の人」は実在の登山家である加藤文太郎の話。文太郎は大正から昭和にかけて活躍した登山家で、パーティで登るのが常識だった山岳界を、数々の単独行によって覆した人である。彼の日常生活はすべて、山のための修錬であり、寒い日に庭でビバークしたり、会社に水を何ℓも詰めたザックで歩いて出勤した。登山のための生活、シンプルな欲望に感銘を受けた。彼は単独行では最強だったのだが、パートナーを組んで登った際に命を落とした。
「垂直の記憶」はアルパインクライマー・山野井泰史のエッセイ。彼は主に単独登攀家であるが、妻の妙子とザイルパートーナーを組む。ヒマラヤのギャチュン・カン北壁では登頂を果たすも、嵐と雪崩に巻き込まれる。脱出に数日間彷徨い、ベースまであと少しで、妻・妙子の力が尽きそうになり、泰史は自分だけでも先に辿り着くべきと判断し、妻を置いていく。ここで妻を見るのがもう最後かも知れないと思い写真を撮る。身内の最後かもと判断したときに、その姿を撮る判断は僕の日常ではない感覚で、山を登攀する人間の覚悟というか精神性を垣間見た気がした。
「クライミング・フリー」はリン・ヒルの自伝。彼女はヨセミテに代表されるビッグウォールを己の力のみで登攀するフリークライマーである。体操で培った柔軟で美しいムーヴで女性クライマーの歴史を塗りかえた。クライマーの方々の本を読むと、欲望について考えさせられる。溢れた娯楽で、己の欲望を中途半端に満足させてしまうと、最優先したい欲望が鈍化してしまう。自分が何を叶えたいのか自覚しないと、真の欲望は先鋭されない。ピークには辿り着けない。 2015/1/15